2013年、リチャード・ コッチ、高遠裕子訳『並外れたマネジャーになる:80対20の法則』CCCメディアハウス、296頁

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仕事のやり方そのものを変えて、並の努力で並外れた成果を出せること

法則を理解している者は、 自分なりの手法をうまく選択できる。 法則を無視して手法を試そうとする者は、必ずつまずく。 

ラルフ・ウォルド・エマーソン(アメリカの思想家・詩人)

見るべきは結果だ。とくに何が最高の結果を生み出したかを見なくていけない。ただし、この本であきらかにしていくが、大きな成果をもたらした要因を調べていくと意外なことがわかる。

 大きな成果は、小さな行動やわずかな労力で達成されている場合が多いのだ。だが、大きな成果を生み出す小さなインプットは、一握りの良い結果と、多くの悪い結果しか出さない大量のインプットに埋もれている。

100年以上前にイタリア人経済学者が最初に発見した、経済の奇妙な法則だ。発見されて以来、この法則の有効性は、数多くの経済学者や企業の戦略家によって確認されてきた。この「パレートの法則」は、世の中を原因と結果に分けた場合、ごく少数の原因(約20パーセント)が、ほぼつねにほとんどの結果(約80パーセント)を生み出している、というものだ。

■マネジャーがわずかな努力で大きな成果を出すには、梃子が必要だ。梃子になる7つの資源を取り上げる。わかりやすいものもあれば、そうでないものもあるが、どれも十分に活用されていない。 

■できるマネジャーは、自分のことだけでは終わらない。他の人を助ける。違う世界に行って、知らない人同士を結びつける。 

■尊敬され(愛されている)マネジャーは、ほんの少しでも、部下を励ましたり、相談に乗ったり、指導したりする時間をとっている。ごくわずかな労力で、生産性が上がり、チームの結束力が強まるさまには驚かされる。 

■できるマネジャーは、部下に自由にやらせる。得意なことを任せる。だが、これは生易しい選択ではない。上司と部下の双方が誠実であり、心を開かねばならない。要求水準を高く設定する必要もある。 

■マネジャーは時間が足りないわけではない。じつは、時間はあり余っている。喧騒から離れることで、大きな成果があげられる。 

■キャリアの成功は、数少ない重大な決断で決まる。 

■大きな進歩は、洗練された怠惰と高度な思索と、とてつもない野心の組み合わせから生まれる。

できるマネジャーになるための10の方法には、簡単なものもあれば、努力が必要なものもある。ただし努力と言っても、自分のやり方を変えようとする強い意志をもつ、といった意味であって、我慢をするとか、やみくもに進むといった従来型の意味ではない。10の方法は、長い目でみれば、驚くほど見返りが大きいものばかりだ。金銭的な見返りばかりではない。周りの人たちの人生をより良くしているので、自分に誇りがもてるのだ。

やるべきことが3つある。

 まず、新しい方法を活かすには、古い固定観念や習慣を断ち切らなければならない。群れに従うのをやめ、何事も自分の頭で考える。慣れるまでは大変かもしれない。 

 第2に、どんな仕事につき、どんな会社で、どんな上司の下で働くかを決めることが重要だ。大ざっぱにいえば、がんじがらめにして、創造力を抑えつける会社ではなく、創造力を発揮できるよう伸び伸びやらせてくれる会社で、裁量権を確保できる方がいい。残念ながら、ほとんどの会社はそうではない。ただ、そういう会社は確かに存在するし、簡単に見つかるものだ。勢いがあって、他社が伸び悩んだり、売り上げが減少したりしているときにも成長している。従業員の満足度もきわめて高い。 

第3に、人生に関わる何かを本気で望まなくてはならない。全身全霊をかけて、本気でそうなりたいと思うこと。本気なら、何を望んでも構わない。 

この3つを聞いてうんざりしていないなら、読み進めてほしい。19世紀の偉大な思想家、カール・マルクスもこう言っている。自分を縛るくびき以外に、失うものは何もない。 

さあ、素晴らしい世界を手に入れよう。

この本では、つねに自分で舵をとる人と、舵をとれない人、という2つのタイプのマネジャーを取り上げる。あなたが舵をとれないタイプだと感じるなら、朗報がある。そこから抜け出し、うまくやっている20% の仲間入りができる。だが、先へ進む前に、簡単な質問を出そう。この答えで、どちらのタイプかがわかる。どの質問も、考えすぎないで即座に答える

80対20の法則とは 

 80対20の法則とは、ごく少数の出来事が結果の大多数をもたらすという観察から導かれた経験則である。結果のほとんどは、ごく少数の原因から生じる。大多数の産出(アウトプット)は、ごく少数の投入(インプット)から生まれる。成果の大部分は、ごくわずかな労力やエネルギーから生まれる。

重要なものはごくわずかしかないが、そのごく少数が飛び抜けて重要なのだ。

80対20の法則の真の価値は、偉大な成果につながるごく少数の活動を見極めるのに役立つ点にある。それを追求していけばいい。

ユーザーの80パーセントが実際に使っている20パーセントの特性を見出した。そして、この20パーセントをどこよりも優れて実行できる方法を見出した。……使われていない特性を切り捨て、ほんとうに重要な特性で他社を圧倒するために全精力を注ぎ込むことで、アップルは、世界一のMP3プレーヤーをつくり、他社が太刀打ちできない牙城を作り上げた。

(注4)アップルがiPhoneを投入した

このアイデアを思いついたのは、19世紀末にローザンヌ大学で活躍したイタリア人経済学者だ(ただ、このときは、80対20の法則とは名づけられていない)。ヴィルフレード・パレート教授は、イギリスの富の分布を調べていて、収集したあらゆるデータがほぼおなじ不均衡なパターンを示しているのに気がついた。16世紀でも19世紀でも、他のどの時代でも、全人口のうちごくわずかな割合が、富の大半を享受していた。つぎに、他の国でもおなじ分析をしたパレートは、その結果に興奮した。イタリアもスイスもドイツも、ほぼおなじパターンになったのだ。パレートは蓄積したデータを使って、グラフを描き、どの時代のどの国の資産分布にもあてはまる等式を導き出した。

ビジネスを主導するのは平均ではなく極端なものだ、という理由がここにある。

ロング・テールの分析から言えるのは、アンダーソンの予想に反して、80対20の法則は覆されるどころか、分布のヘッドの部分ではその傾向が強まっている、ということだ。ロング・テールが存在するのはおおいに結構だが、恐竜とは違って、現代のマネジャーにとって利用価値は少ない。  さらに、80対20の法則は、リアルの店舗よりもネット上で強く出る傾向がある。

テールはとても興味深いが、売り上げの大半は依然としてヘッドにある……。 

 じつは、インターネットを通じて大化けして、ブランドの集中が進む可能性が高い。流通手段が多様化しているので、ほとんどの人は気づかないのだが。ともかく、人が集えば、一人のスーパースターを望むものだ。最早、アメリカのスーパースターではない。世界のスーパースターだ。

マネジャーにとって、なぜ80対20の法則が重要なのか 

80対20の法則は、一般通念から外れている。数が多い方が少ない方より重要だと考えるのは、一見理に適っているようにみえるが、結果をみると、この考えはおよそ正しいとは言えないのだ。  現代に生きるわれわれは、80対20ではなく50対50の周波数に合わせている。均衡のとれた世界を期待する。原因の50パーセントが結果の50パーセントにつながると予想する。あらゆる出来事、あらゆる原因がほぼおなじ重さをもっていると考える。気づいているかどうかはともかく、これが一般的な考え方であり、無意識の想定だ。だが、この考え方には著しい欠陥がある。 

何よりもそれがあてはまるのが、ビジネスだ。ビジネスの世界で、有害かつ馬鹿げているのに根強く残っている考え方がある。売り上げはすべて良いもので、収益はすべて貴重であり、収益源はすべて等しく重要である、というものだ。だが、それは違う。 

売り上げはすべて良いものだという幻想は、最悪かつもっとも馬鹿げた失敗につながる。見当違いの顧客を追いかけることで、膨大なエネルギーやカネが無駄になる。典型的なのは、数が少なく、洗練されていない顧客を追いかけることであり、そんな顧客を獲得したとしても、十中八、九、利益には貢献してくれない。売り上げはすべて良いという幻想は、拡大志向につながり、買収で致命的な失敗を犯すこともある。

売り上げは良いことだという誤った考えから、自社の主要顧客には受けがよくない新製品や、流通チャネルやブランドのポジショニングとは合わない新製品の開発に走ることもある。

売り上げは良いことだという誤った観念は、利益なき成長につながる。軽率なマネジャーは、新規顧客と得意客を同等に扱うきらいがあるが、新規顧客は少ししか買わないくせに、不当な安さを求め、スタッフや他の客を嫌な気にさせる。これに対し得意客は、気持ちよく代金を支払い、商品を友人に紹介し、優秀な従業員のやる気を高めてくれる。

80対20の法則の価値は、モノの見方を大きく変える点にあり、ごく一般的な大ざっぱな見方ではなく、きわめて正確な見方ができるようになる。

80対20の法則にもとづいた決定をつねにすることで、仕事がどんな風に変わるか想像してみて欲しい。  

時間が足りなくなることはない。もっとも重要で急を要する問題だけに取り組めばいい。ビジネスを効率的で収益性の高いものにできる。仕事を楽に、楽しくする方法を同僚に教えることもできる。優良顧客を特定し、その人たちをそれまで以上に幸せにすることができる。自社の真の強み──競争相手に対し優位に立てる貴重な特徴を大切にすることができる。  

どんな問題でもつねに核心に迫り、ほんとうに重要な少数の事柄に絞り込むことができれば、心が穏やかになり、静かな自信がもてる……取るに足らない雑事によって時間を無駄にすることもない。

80対20の法則は、結果や成功にいたる経路が複数ある点に奥深い真理がある。バランスをとる必要はない。10の方法のうち、どれかひとつに秀でる方が、10の方法すべてを身につけるよりも成果があがる。  

そのため、合っていると思う方法があれば、その項をじっくり読んでもらいたい。そして、これと思う方法を選んだら、実践していただきたい。結果はすぐにわかるはずだ。だが、どの方法も奥が深いので、しっかり身につけるには半年から1年かかるかもしれない。10年かかる可能性だってある。

これは、ただ読むだけの本ではない。並外れたマネジャーになるために活用できる、行動変革の手引書なのだ。

主要顧客は誰なのか、なぜ重要なのかをわかっていない。典型的な間違いは、ほとんどの顧客を大切だと思ってしまうことだ。これはほとんど幻想であり、ほんとうに重要なのは主要顧客だけだ。それが腑に落ちれば、主要顧客は誰かを見極めたうえで、ターゲットを絞る。そうすれば、比較的小さな努力で利益が増えることに気づくだろう。

顧客ベースを調べ、80対20(あるいはそれ以上に偏っているかもしれない)のパターンを見極め、20パーセントに注力できる新たなシステムをつくればいい。

どんな企業でも、儲けをもたらしてくれる少数の顧客がいるはずだ。そうした顧客には、以下のような特徴があるだろう。 

■長年にわたり忠実な顧客である。 

■会社や商品、サービスを誰よりも評価してくれる。 

■自社の商品やサービスにふさわしい。たとえば、時計のロレックスやオーディオのバング& オルフセンのように、高級な商品、先進的な商品を提供しているなら、こうした商品にふさわしく、洗練された客が得意客になる。一方、タイメックスやブッシュなど、手ごろな商品を販売しているなら、標準的な商品で満足する人たちが得意客になる。 

■価格にさほど敏感ではない。 

■不平不満を言わない。 

■大口顧客。先に挙げた特徴にあてはまらない大口顧客については要注意だ。数の力にモノをいわせて不当な価格を要求してくるかもしれない。

いちばんの問題顧客を特定することも、おなじくらい重要だ。問題顧客とは、こちらが損をするばかりで失っても構わない顧客のことだ。こうした顧客に対しては、思い切って取引価格を引き上げ、サービス・コストを削るべきだ。最悪の顧客は、最上の顧客の裏返しだ。以下のような特徴がある。 

■節操がない。あちこちつまみ食いして、他社に好条件を提示されると、あっさり乗り換えて落胆させる。 

■価格にはきわめて敏感。こちらに面倒をかけておいて、ずうずうしいにもほどがある。 

■つねに不平不満ばかり。 

■自社の商品やサービスにはそぐわない。もっと高級な品か手頃な品を求めている。 

■顧客になってもらうのに、えらく高くつく。  

以上の優良顧客と問題顧客を把握し、グループ分けしたら、各グループの採算を計算する。販売・マーケティング、管理、調査など本社経費を正確に計算する。平均データを使うのは要注意だ。たとえば、価格に敏感なグループは、好条件を示せば多く買ってくれ、販売単価は低くなるのに、それが既存の会計データには表れない。各顧客グループからサンプルを抽出し、顧客行動の影響を観察し、推計すべきだ。

どの製品ラインがドル箱で……どの製品ラインがお荷物か  

優良顧客を特定していると、製品ラインについて何をテストすべきかがわかってくる。ドル箱の製品とお荷物になっている製品を分けるのだ。ドル箱の製品はごく一握りで、以下のような特徴がある。 

■売れ行きが他の製品を圧倒している。 

■開発され、発売されてからかなり時間が経っている。 

■誰かが考えなくても、「ひとりでに売れている」。 

■ライバル会社は製造していない(あるいは、ライバル会社の販売量はかなり少ない)。 

■価格は高値で安定している。 

■優れた独自技術やサプライ・チェーン、独占的なアイデアやプロセス、質の高いスタッフなど、自社の「強み」を活用している。  

赤字を垂れ流している大多数の製品には、つぎのような特徴がある。 

■売れ行きが鈍い。 

■口うるさい顧客の要求に応えるために、多くの労力がかかる(そうした労力に見合った価格の上乗せをしていない)。 

■発売したばかりで、多額の広告費、マーケティング費用、販売費用がかかる。 

■ライバル社も同程度の品質で製造し、販売することができる。とくに、ライバル社の販売量が多い場合。 

■価格が変動しやすく、長い目でみれば低下していく。 

■主要部品の仕入れ先の立場が強く、「仕入れコスト」の割合が高い。たとえば、自動車メーカーは、鋼板はもちろん、電子機器など多くの部品を購入しており、製造コストに占める仕入れコストの割合が高い。 

■高いスキルを必要としない。  

これらのリストを活用して、自社製品を「良い」製品と「悪い」製品に分ければ、おそらくもっとも重要な問いを発することができる。 

自社の「コア」とは何か

これが、「コア」の考え方だ。業界内である企業を際立たせ、企業価値の大半をもたらしているのは、その企業の活動(存在)のせいぜい20パーセントに過ぎない。  

強力なコアのない企業は、世に知られることはないし、長続きもしない。

■簡単にマネできない。たとえば、最高の立地など、他社には手に入らないもの。 

■価値がゆっくりとしか減っていかない。

■従業員でも取引先でも顧客でもなく、会社が支配してる。

■新製品、新サービス、最新技術に代替されない強さがある。

■ライバル社の類似のリソースにくらべて断然優れている。

自社の経営資源について、これらの基準に厳密に照らし合わせると、コア・リソーシズと呼べるものは一つか二つに絞られる。それが決まれば、コアを強化するために、全員の力を結集でき、ひいては世の中に大きなインパクトを与えることができる。  

自分自身に問いかけるべき七つの質問  

探偵マネジャーとして成功するには、社内や製品以外にも目を向けるべきものがある。

  1. 自分が担当する事業……そして自分のキャリアを加速してくれるたった一つの強力なアイデアとは何か。  

アイデアは無数にある。だが、他の国でも他の会社でもいいのだが、どこかでうまくいったアイデアを調べていくと、自分が成功する確率をぐっと高めることができる。つぎに、あらゆる選択肢を検討したうえで、大きなインパクトを与えそうなアイデアを1つだけ選ぶ。

  1. アイデアにカネを出してくれるのは誰か。  

たったひとつの素晴らしいアイデアを見つけたら、ためらわずに声をあげることだ。組織の上の人間、いちばんトップの人間が興味をもってくれるかもしれない。

  1. 優れた結果を出すのは誰か。どうやって結果を出すのか。  

大成功している人がいるとすれば、そこには必ず秘訣がある。それを見つけられれば、やり方をマネしたり、アレンジしたりしておなじように成功できる可能性がある。

  1. どうすれば、16倍の改善ができるか。  

パフォーマンスを改善する余地はつねにあるものだ。80対20の法則を理解すると、改善できると自信がもてる。2、3倍の改善で満足していてはいけない。目指すべきは16倍、あるいはそれ以上の改善だ。ありえないような進歩を目指す。

  1. どうすれば、より少ない労力でより多くの成果をあげられるか。

 人材も予算も時間も足りないくらいの方が、成果があがるものだ。画期的な発明につながるものだ。

  1. いちばん大事なお客さんは誰か。

 自分にとって一番大事なお客さんとは、自分が最大の価値をもたらすことができて、自分の仕事の大きさやインパクトを変えるのを手助けしてくれる人のことだ。

  1. 足枷になっているものは何か。

 あなたの足を引っ張っているのは何だろうか。この問題に正面から向き合わなければ、キャリアを棒に振ることになる。大事なのは、自分の内面を見つめることだ。自分の強みは何か、そして最大の問題な何なのかを見極める。自分の足枷になっているものがわかれば、何らかの対策を取ることができる。障害を取り除いて、力強く前に進もう!

顧客のどの20パーセントに手厚く対応すべきか、製品のどの20パーセントに力を入れるべきか、どの顧客を開拓すべきか。これがわかれば、面倒な作業の大半(少なくとも、その80パーセント)は終わる。

第2の方法  連結の達人マネジャー

弱いつながりの絶大な効果  

仕事やプライベートで、いちばん助けてくれる人は誰だろうか。気心の知れた同僚だろうか。友人や家族だろうか。あるいは、滅多に会うこともない、思いもよらない人だろうか。  

答えは意外なものだ。人生において大きく飛躍するとき──わくわくするような新しい仕事についたり、事業を変革するようなカギを見つけたりするとき、そのきっかけをくれるのは、親友や同僚ではなく、なんとなくの顔見知りである場合が多い。連結の達人マネジャーは、こうしたなんとなくの知り合いの幅を広げ、誰もが豊富にもっている「弱いつながり」をフル活用する。

グラノヴェッターは考えた。結論として、友人や家族、親しい同僚は、「社会構造の緊密な塊」を形成していて、その内部の人同士はしょっちゅう接点がある。おなじ情報にアクセスしていて、それ以上の情報はない場合が多い。そのため、身近なサークルから出て、社会的ネットワークの遠くの人々と接しないと、新たな発見もないし、新鮮な情報も入らない。だとすれば、昔の知り合いと旧交を温めたり、友人の友人とのつながりを開拓したりするべきだ、ということになる。

何をすべきかわかっているはずだ。できるだけ多くの緑のくじを手に入れるために、会社のなかでも、外でも、弱いつながりを広げるよう努力する。そうすれば、同僚にはないひらめきや情報が手に入る。少ない労力で多くの成果をもたらしてくれる可能性のある、距離は遠いが、感じのいい知り合いとは関係を保っておこう。

よく似た従兄弟──50対5の法則と20対1の法則があることをみた。結果の80パーセントが原因の20パーセントから生まれるのなら、結果の50パーセントは原因の5パーセントから、結果の20パーセントは原因のわずか1パーセントから生まれる、というものだ。

マネジャーは、アイデアや知見を共有しているため、斬新なアイデアは社外から──多様な情報源やインスピレーションからもたらされる可能性が高い。社外の弱いつながりを開拓するマネジャーは、優れたアイデアや有用な人に出会う確率が高い。

新しい事業は、新しいアイデアと古いアイデアを組み合わせてできる。マネジャーならば、起業家よりも少ないリスクで、より多くの資源を使っておなじゲームに興じることができる。

徹底的に調べること、そして異なる人を結びつけて大当たりの確率をあげることによって、ビジネスの効率をあげられる…。

第3の方法  メンタリング・マネジャー

われわれは従業員に関心をもって接していたのだ。  

大事なのは人だ。人間を理解する基本的な力を養わないと、うまくいかない。そして、人は、自分に関心をもってもらえれば頑張るものなのだ。  

メンタリング・マネジャーは、部下に関心をもって接する。  

われわれがプロジェクトに携わっていたときには、従業員に関心をもって接していた。技術的な変更も大事だが、その効果は大きくなかった。

誰しも、自分という人間や自分がやっている仕事に関心をもってもらいたいものだ。

人より抜きんでて、高いパフォーマンスを維持するには、コーチやメンターが必要になる。過去40年、コーチなしで夏のオリンピックに参加した選手は一人もいない。なぜか。コーチには経験もアイデアもある。責任感をもたせてくれる。だが、いちばんは、背中を押して、励ましてくれる存在だからだ。  

部下の背中を押すのは誰か。マネジャーがやらなければ、誰もやる人がいない。誰もやらなければ、チームのパフォーマンスを最大化することなどできない。  

部下を励ますことは、メンタリング・マネジャーの一部でしかない。  

マネジャーが現在の立場を得たのは、直前のポジションでいい仕事をしたからだが、だからといって、マネジャーとして良いとはかぎらないし、そうでない場合が少なくない。マネジャーに就任した途端、自分のことで手一杯になる。

部下の成長は、マーケティングや戦略、財務、技術的スキル、業界の常識、顧客対応以上に重要だ。

努力と決意が必要だが、それに見合うだけの成果はあがる。メンタリングによって、組織は健全になる。部下の能力は何倍にも引き出される。自分自身の人間性も磨かれる。何よりも働くことで喜びが得られるのだ。  

以下で、メンタリングにも80対20の法則があてはまることを示そう。 

■メンターとして成果をあげているマネジャーは、20パーセント以下だ。だが、人的要因でパフォーマンスに差が出るとすれば、80パーセント以上はその一握りのマネジャーのおかげである。これはきわめて重大な事実だ。 

■メンタリングは、ほんの少しの労力が大きな成果を生み出すことを示す、格好の例だ。部下は自分のことを気にかけ、方向性を示し、力づけて欲しいと思っている。ほんの数分の時間を使うだけで、一週間、ずっとやる気を保つことができる。メンタリングは、80対20の法則の最たるもので、驚くほど梃子の原理がはたらく。

■メンタリングの一環として、部下に対し、80対20の法則と、できるマネジャーになるための10の方法を話せば、最小の労力で最高の結果が得られるだろう。だが、理論をぶつけてはいけない。10のうち一つの方法がうまくいってはじめて、そのことについて話す。その方法を身につけるのがいかに簡単か(あるいは、むずかしいか)を伝え、上に立ったときの仕事のやりがいや達成感を話す。どの方法に最初に取り組むべきか、ひとりひとりと話す。取りかかるにあたり、どんな計画を立てているか、どんな手順で進めるかを尋ねる。それが終われば、毎週、進み具合を尋ねる。うまくいっていなければ、軌道修正できるよう、ほんの2、3分でも話しかける。部下のうち一人でも80対20マネジャーにできれば、価値は何倍にもできる。

■メンタリングの対象者全員に、社内で少なくとも2人のメンター役になるよう同意を取り付ける。彼らがおなじようにすれば、たちまちメンターの山ができる。「サブ・メンター」に10の方法を実践する方法を教えれば、影響力はさらに大きくなる。 

■業績評価の重要な部分で、メンタリングをした相手の業績を引き上げる。会社全体のシステムに取り込むようにする。公式にできなければ、非公式にやる。部下と話すときはつねに、部下がメンター役をつとめている社員を話題にする。目立った改善がみられなければ、理由を問うよう促す。何がうまくいっていないか、どこが効率的でないかを把握する必要がある。

■80対20の法則に照らせば、どんな会社であれ、素晴らしいメンターはごく少数で、その成果は他の人たちを圧倒しているはずだ。そこで、素晴らしいメンターを特定し、彼らの行動を分析する。わからなければ、本人に直接聞く。真摯に尋ねれば、相手も悪い気はしないし、感心してくれるだろう。秘訣を聞きだしたら、それをマネする。

 ■大事なのは褒めることではなく、優れた結果を出すことだ。メンタリングの効果が大きい人たちは、以下の3つに分類できる。第一に、自分の業績を上げるためのヒントを求めている人。第二に、すでにうまくいっていいるマネジャー。第三に、行き詰っていることを自覚している人だ。うまくいっている相手には、すでにある力を磨いて一流になるよう

誰しも得意なことがあるはずなので、それを認めることが大切だ。同時に、本人にも周囲にもマイナスになっている、数少ない行動を見極める必要がある。そうした行動をやめる方法、改善する方法をアドバイスする。行動全般を改善するよりも、二、三の過ちを修正する方がずっと簡単だ。

最高のメンターの見つけ方  メンタリングは八〇対二〇の法則があてはまるが、メンタリングを受ける側にも法則があてはまる。下っ端の事務員でも、多国籍企業のCEOでも、アメリカ大統領でも変わらない。誰しも支えやコーチングを求めているし、誰しもメンターを求めている。あなたのメンターは誰だろうか。一人も思いつかないなら、いますぐ何らかの手を打たねばならない。  最高のメンターをつかまえ、引き止めておくためのヒントをお教えしよう。 

■量よりも質を求める。一人の最高のメンターは、五人の

自分がメンターになってもらいたいと思う相手に、ためらわずに頼みこむ。相手が大物で忙しく、引き受けなければならない理由がなくても、躊躇することはない。ジャック・キャンフィールドも言っているように、「成功した人々は、自分が学んだことを話したいものだ。……全員が全員相談に乗ってくれるわけではないが、頼まれれば喜んで

がやりやすいよう配慮する。とはいえ、ほんとうに必要なときには、遠慮しないで助けを求める。優れたメンターは自分の存在意義をわきまえている。決定的に重要なときに頼られなければ、かえってがっかりするものだ。 

■心して話を聴く。優れたメンターは、一から一〇まで懇切丁寧に説明してくれるわけではない。相手を傷つけてまで正直に話そうとする人はほとんどいない。言外の意味

■最高のアドバイスも、行動を起こさなければ無駄になる。即座に実行に移そう。 

■最高のマネジャーを目指しているなら、一〇の方法のうち自分が選んだ方法に、メンターからのアドバイスを取り入れる。あれこれ手を出すよりも、目標を絞った方が成果が出やすい。そこで、メンターに一〇の方法と、自分が選んだ一つの方法について説明する。これは、相手にとっても効果的なマネジャー(メンター)になるための助けになるかもしれない。 

■何かお返しをする。わたしは目下、二〇代のジャック・キャンフィールドの本『成功

ビジネスにおける成功は、アイデアとビジョンに左右される。いちばん必要なときに、知恵を貸してもらい、支えてもらう。自分も知恵を貸し、誰かを支えれば、自分や(友人や同僚の)目標を、新たなレベルに

第4の方法 

優れた成果を出すための七つの梃子 潜在意識 自 信 アイデア 決 断 信 頼 人 材 カ ネ 潜在意識

気にかけることや関わることはあたりまえの態度なので、そのインパクトが見逃されている。気にかけていなければ、突破口につながるかもしれない重要な手掛かりを見逃してしまう。気にかけること──目標を達成したいと思う分野を深く心に留めておくと、他のことを考えていても、つねに頭のどこかがはたらいている。どこからともなく、アイデアが浮かんできた経験はないだろうか。そうしたことが起こるのは、ほんとうに気にかけているときだけ

潜在意識は八〇対二〇の法則に完全に合致する。やらなければならない他のことに集中しているときに、ひとりでにはたらいてくれるのだから、このうえなく経済的だ。直線的な思考プロセスでは決してたどりつけない、斬新で独創的で奇妙なアイデアをもたらしてくれる。だが、潜在意識という梃子を有効に活用しているマネジャーはほとんどいない。というのは、そもそも潜在意識に取り組んでもらうべき問題を、突き詰めて考えていないから

気にかけることは、やりがいとも深く関わっていて、それが喜びにつながる。何か夢中になれるものがあれば、人生は有意義なものになる。

潜在意識は強力な梃子になりうるが、この目標を達成するんだとつねに念頭に置いていればこそ、はたらいてくれる。

自 信  

自信も梃子になる。他の人ならそもそも試そうともしないことをやってのけられる。

成功のイメージをもつことで、自信が湧いてくる。自分が勝利する姿が思い浮かぶなら、後はやるだけだ。

アイデア  あらゆる事業はアイデアとともに始まる。事業が成功するには、アイデアが良くなければいけない。だが、どんなアイデアも磨いていける。製品やサービスは、死なないかぎり、いずれ変化し、良くなっていくだろう。だが、その前に、違うアイデア、もっといいアイデアがあるはずだ。

より良いアイデアから生まれたより

ジョセフ・シュンペーターは、このプロセスを「創造的破壊」と名づけたが、チャールズ・ダーウィンもおなじ言葉を使った。自然は創造的破壊を繰り広げるが、ビジネスもおなじだ。自然では、遺伝子によって創造的破壊が行なわれる。突然変異

決 断

頭で考えたうえで決断しているのは人間だけだ。だからこそ、決断は大きな梃子になる。意志決定がなければ、人生という大海原をあてもなく漂うだけだ。世の中を変えるという大それた決断もできる。きっぱりと決断できるなら、成功するだろうし、ぐずぐずと決められないなら、成功することはない。

信 頼

上司に信頼され、部下を信頼しなければ、優れたマネジャーにはなれない。信頼の本質は、インプット(投入)ではなくアウトプット(産出)に照準を合わせること。そして、部下にもおなじようにさせることだ。部下を信頼していないと、インプットで評価することになる。これをしたか、あれをしたか、たえず監視していなくてはならない。恐ろしく非効率だ。これは、八〇対二〇方式に反する。相手を完全に信頼していなければ、自分も相手も八〇対二〇流のマネジメントを実践することはでき

人 材

A」の人材とは、どういった人たちか。  価値あるアウトプットの九九パーセントを生み出す、一パーセントの人たちだ。

カ ネ  

他人のカネを使うことは、大きな梃子になる。  

一〇〇〇ドルを三〇〇〇ドルに増やすことができる優れた事業アイデアがあり、起業を考えているとする。儲けは二〇〇〇ドル。悪い話ではない。が、もっとスケールを大きくできないものか。一〇倍のプロジェクトなら、一万ドルを三万ドルにできる。

会計の世界では、これをレバレッジ(梃子)と呼ぶ。この例のようにうまくいけば、言うことはない。だが、起業家にとってレバレッジは、自分のリスクが高まる一方、コントロールしにくくなるので、命取りになる恐れがある。  

起業家ではなくマネジャーなら、こうした問題に向き合わなくても

できるかぎり大きなプロジェクトを立ち上げよう。これこそ、八〇対二〇マネジャーがやるべきことだ。会社がすべてのリスクを引き受けて、成果のかなりの部分はマネジャーが享受するのだ

七つの梃子を使うことは、八〇対二〇マネジャーになるための他の方法とは、少し違っている。他の方法を助け、強化するのだ。

自由にやらせるマネジャーは、部下に対してあくまで誠実で、応援を惜しまず、気さくに接するが、要求の厳しいマネジャーだ。

自由にやらせるマネジャーは、部下の良いところを引き出して、本人にとっても会社にとってもプラスになるようにする。チームのメンバーそれぞれに刺激を与え、創造力──性格や能力の一端──を活かして、がむしゃらにやらなくても最高の成果が出せるようにする。それができれば、チーム全体の力が発揮され、おのずと八〇対二〇の法則に従って動くようになる。だが、自由にやらせるには、マネジャーの側にも、自由にやらせてもらう部下の側にも必要なものがある。誠実さとオープンさだ。これは、誰にでもできるものではないし、組織として無理な場合も

人を率いるうえで知っておくべきことは、すべて幼稚園で学びました。根底にあるのは、友情、正直、信頼です。社員は生活すべてを仕事に持ち込めるので、仲間のため、あるいはわたしのために、体を張って仕事をしてくれます。ありのままでいられるのです。信頼が生まれる環境をつくらないかぎり、誰も全力で仕事をしようとはしませ

若い世代にとっては、おカネよりも生活の質や経験といったものが大切なのです。給料が三分の一になっても、ベンチャー企業で働き、そこで学べば、いずれ必要なおカネは稼ぐようになるでしょう。  

人を尊重するように育てられていれば、良きリーダーになれます。長く仕事を共にしたいので、部下に対して友人のように接します。思ったことは率直に口にします。そこには、言外の意味もなければ、腹に一物もないのです。

創造力を活かす  

部下の力を最大限に引き出すには、彼らの創造力を開花させなければならない。創造力とは、本人の能力や性格の二〇パーセント程度で、成果の八〇パーセント以上を生み出せる能力だ。部下に自由にやらせて、潜在能力を発揮してもらう。それには、各人の「尖った部分」を見つけ、チームや会社にプラスになるように、それを磨き、伸ばしていくよう励ます。そのためには、ときに本人以上に、部下のことをよく理解する必要が

創造力を引き出すには、誠実で、親しみやすく、開かれた環境づくりが大切だ。

企業社会では、自由を前提としたマネジメントを実践する人は、いまだに少ない。完全に自由で誠実であるためには、かなりの知恵と理解力が必要だが、現在の企業社会では圧倒的に不足している。だが、知恵と理解がある会社を見つけることができ、かつ自分に自信をもち、高潔であるなら、権力にひざまずくよりも、自由で誠実でいる方がずっと自然な働き方になる。人間はそもそも、互いに協力して、社会的なつながりをつくっていくようにプログラムされている。そのため、正直に高潔に振る舞うためにさほど努力を必要とするわけではない。部下を奴隷にするよりも、自由にやらせる方がずっといい。自由にやらせることこそ、チームや個人が仕事にやりがいを感じながら、最高の成果をあげる唯一の道なのだ。  

自由にやらせるマネジャーは、そのチームならではの特徴やスキル、固有の性格や経験を認め、伸ばしていかねばならない。そうすれば、チームから新たに素晴らしいマネジャーが生まれ、異なる個性を持ちながら補完し合う「二〇パーセントの尖った部分」を組織全体に広げるという理想に近づくことができる。個人の自由は、自由な文化のなかでしか生まれない。文化をつくるのは大変だが、壊すのもまた大変

人生の意義とは、自分ならではの想像力や才能を活かして何かを創造したり、何かを成し遂げたりすることで達成感を得ることだとフランクルは語る。

そもそも幸せを探すこと自体が間違っている。幸せは、探すのをやめたとき、我を忘れて何かに没頭して意義を見出した瞬間に訪れるのだから。幸せとは、有意義な人生を送っていると、それに伴って味わえる感情なのだ。「意味がないのは人生そのものではなく、潜在力を発揮できないことだ」とフランクルは

ジョアン・ゴッドフリード・ハーダー(一七四四~一八〇三年)はこう書いている。「人間はそれぞれ独自のものさしをもっている。それは自らのあらゆる感情のなかで本人に固有のものだ」。個人間の違いが重要であり、各自が自分の個性に合わせて、独自の道を歩むべきだとハーダーは語る(注

各自が潜在能力を発揮することは、経済にとっても社会にとっても望ましいが、それは本人が人生に意味を見い出せる唯一の方法でもある。

非営利組織での職を希望しているなら、先ほどのテストをアレンジして有望かどうかを見分けることができる。その組織は、業界で圧倒的な地位にあるか。その業界は年率一〇パーセント以上で成長しているか。組織の予算は、成長に伴い増えているか。その組織の影響力や存在感は高まっているか。これらの質問の答えが、すべて「イエス」なら、その組織で決まり

「どこで働こうと、一従業員という考えは捨てた方がいい。自分という一人の雇用主と仕事をしているのだ。自分のキャリアに責任を持つのは、他の誰でもない。自分自身だ」(注8)、インテルの元CEO、アンディ・グローブはこう語った。アンディの言に従うなら、自分のキャリアを決めるのは、人事部門でもなければ、上司でもない。会社でもない。自分自身だ。自分のキャリアが思い描いたものと違うとすれば、責めるべき人間は一人しかいない。

専門性が高ければ、業績をあげられる可能性が高くなる。建設的に専門性を高めるには、満たすべき三つの基準がある。 ① 強い顧客ニーズに応える。 ② 独自の知識と能力を備える。 ③ 他のマネジャー、つまりは競争相手がそれらをもっていない、だ。

意義を求めるマネジャーも、おなじような道をたどる。自分の核となる性格やスキルを意識する必要がある。それには、とくに仕事で喜びを感じるなかで、自分を目立たたせ、高業績を生み出せる自分の真の特性や才能とは何かを見極めることが重要だ。

意義を見い出すことができれば、仕事と遊び、サービスと自己表現、謙遜と成功、義務と自由の境界は消えてなくなる。意義がそれらを超越する。人生が価値あるものになり、自分の才能や価値観を総動員するからだ。八〇対二〇の法則によれば、自分を自分たらしめているのは、数少ない個性だ。数は少なくていいから、徹底的に身につけ、強い関心をもっていることがあると、人並みはずれた成果をあげられる。

いくつかの決定的に重要な決断は、ほとんど時間がかからないが、大きな影響力を及ぼす。年齢が上がるほど、たった一つの決断で成果の九九パーセントが決まる場面が増えてくる。

八〇対二〇の法則に則って時間を活用するには、まず自分の仕事でもっとも価値がある分野を見極めることだ。つぎに、その重要な分野に特化し、他は一切無視できるだけの自由と自信が必要になる。とはいえ、何より必要なのは、行動する前に考え、邪魔するものに抵抗し、ほんとうに価値のある重要な問題だけに取り組むという意志と規律だ。

時間に余裕をもつ人になる八つの方法  短い労働時間でより多くの成果をあげる単純な方法が八つある。

自分らしく働けるように、裁量権を最大限確保する。  

社外とおなじように、社内での時間も、自分の裁量で自由に使えるようにする。

役立たない。だが、決められた作業手順に従わなくてもいい大半の人たちは、労力に対する成果が大きい行動だけを選ぶことができる。

毎日、優先課題を一つだけ選び、真っ先に取り組む。  

この重要性はいくら強調しても足りない。この基本的なルールにしたがえば、効率が目覚ましく上がること請け合いだ。  

月曜の朝、出勤したら、メールを読んではいけないし、電話をしてもいけない。噂話に興じてもいけない。会議の出席もダメ。やりかけで金曜から机の上に置いてある仕事に手をつけるのもダメ。静かに座って自問する。「この一週間に想定される仕事のなかで、今日中に終わらせるべき最優先課題は何か」。おなじくらいの価値ある仕事が二つ浮かんだら、より簡単で、速くできるものを選ぶ。  

選んだ課題が終わるまで、他のことは一切しない。  

五分で終わる場合もあれば、一時間、あるいは午前中いっぱいかかる場合もあるだろう。例外的にその日一日かかることもある。それより長くかかったとしたら、選んだ課題が間違っている。次回は、

行動する前に考える。  

無駄な行動が圧倒的に多い。

何かに取りかかる前に、それが決定的に重要な二〇パーセントなのか、取るに足らない八〇パーセントなのかを考える。八〇パーセントに入るなら、やらない。

会社あるいはチームが成功するための少数の決め手を見極める。  

成功のカギを握るコア──有力な顧客、資源、行動などを理解する(第1の方法を参照)。コアに集中するために、何ができるだろうか。

優良顧客の声に耳を傾ける。  

利益の八〇パーセントをもたらしてくれる、二〇パーセントの顧客と対話する方法を考える(ここでも、第1の方法を参照)。顧客の要望を聞き、それに応える。

チームのメンバーを八〇対二〇マネジャーにする。

メンバーには自由と時間を与え、自分自身も楽しむ。ある程度のたるみは引き締めるが、ときどき相談に乗り、助言を与え続けていると(詳細は、第3の方法を参照)、パフォーマンスは飛躍的に上がるだろう。

幸福や効率の八〇パーセントをもたらす二〇パーセントの仕事を見極める。  

こうした活動にあてる時間を増やし、それが大半を占めるようにする。同時に、不満とか非効率の八〇パーセントを生み出している活動の二〇パーセントを特定して、一切やめるようにする。

労働時間を減らしていく。

時間が希少なとき、生産性は上昇する。賃金が高ければ、技術革新が必須になる。個人も社会も豊かになるには、労働時間を減らすにかぎる。

企業はもっともシンプルな二〇パーセント──正統的で特徴のあるコア、その存在や行動がもっとも際立つ二〇パーセントに絞ったとき、勝利を手にできる。おなじことはマネジャーにも言える。自分の行動を正統的で、際立ち、強力な二〇パーセントに絞り、単純化すべきだ。そして、一度に重視するのは一つだけにする。

おなじ原則はマネジャーにもあてはまる。  

怠慢そのものは美徳ではないことを、マンシュタイン将軍は教えてくれる。高度な頭脳を駆使して考え抜いたときだけ、うまく作用する。さらに、これまで出会ってきた最高のマネジャーは、思慮深さや独創性とビジョン、といった他の美徳とともに、尊大さ、自己陶酔、甘えなどといったさほど魅力的でない性格も備えていた。自分の時間にきわめて高い価値をおき、誰にも邪魔されないで物事を考える自由があり、したがって快適で、雑事は避けたいと願う。その雑事は、庶民的資質を発揮して、残った人間が懸命に片づけるのがつねだ。  

こうした超人マネジャーが怠慢なのは間違いないが、一種独特の怠慢であり、独創性と結びついている。聡明だから自信をもって怠慢になれるし、怠慢だからこそ自由な時間があり、より少ない労力で多くの成果を上げる近道を見つけ出す。先に紹介したジャック、ブルース、ビルも、これほど想像力が豊かでなければ、あそこまで怠けてはいなかっただろうし、もっと勤勉に働いていれば、あれほど想像力が豊かではなかっただろう。とはいえ、一方に、怠慢と甘えの強い結びつきがあり、もう一方でそれらに触発された決意がある。

戦略的マネジャーはみな、動くことよりも考えることを重視している。一般的なマネジャーのように行動や規則を優先して、考えることをおろそかにするようなマネはしない。より少ない労力でより多くの成果を出すにはどうすればいいかを考え抜く。

適度な努力で良い結果が得られないなら、さらに努力しても最高の結果を得ることはできない。素晴らしい何かを得るには、努力を減らすか、一切やめてしまうことが必要な場合もある。これは、そこそこで満足せよという意味ではない。違うことを、理想的にはより優れたことを試してみる。あるいは、目標は変えなくても、違うやり方を見つける。あらゆることが楽々とできるということではない。八〇対二〇マネジャーは、同僚よりも得意なこと、簡単にできることに力を入れるべきだ。

誰よりも高いレベルで、誰よりも少ない努力で達成できる価値あることは何か。目標は大きいほどいい。