レイチェル・カーソン『沈黙の春』青樹簗一訳、新潮文庫、新潮社、1974年、 394頁
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当時のアメリカで大量生産、大量使用されていた化学薬品の殺虫剤や除草剤がいかに危険なものか、多くの実例を示して環境問題に警告する先駆書です。
原著は1962年に出版されています。
この本をきっかけに、アメリカでDDT(有機塩素系の殺虫剤、農薬)の使用を禁止する法律が制定されたほど全米にインパクトを与えた意義ある書籍です。
歴史を振り返れば、人間は家畜や作物を人間の利用目的に合うように改良してきました。
その改良は家畜や作物にとっては奇形であり、自然界に対しては虚弱です。
農耕型となった現在、例えば「単一農作物栽培」をすることにより、その土地は自然界とのバランスが崩れます。
その結果、ある種の野草や野生動物にとっては絶好の生活環境となり野草や野生動物は爆発的に増えました。
そして、人間は爆発的に増えた昆虫や雑草に対抗するために化学薬品を使用することになりました。
自然の破壊や自然の汚染、つまり空気、土壌、河川、海洋、地下水、魚、鳥、爬虫類、家畜、野生動物、植物、食糧、そして人間にとっていかに化学薬品が「毒」であるか。
化学薬品は「生物濃縮」され「食物連鎖」を経ることで、より上位の生物に破壊的被害を与えます。
また、妊娠中の被害として化学薬品が胎児の細胞を破壊して奇形児が生まれてくる可能性を高めます。
化学薬品は間接的または直接的に発がん物質であり、がん、白血病や血液関係の病気に因果関係があります。
がんの原因になるものを野放しにして、がんの薬を開発したり治療の研究に莫大な費用をかけているのが現状です。
本来は、それ以上にがんが発生しないように原因を「予防すること」が大切であるにもかかわらずです。
今は、がんになっていない人、未来に生まれてくる人々のために「がん予防」の努力を私たちがしなければなりません。
化学薬品による防除は一時しのぎで、真の問題解決にはなりません。
そして、その攻撃は昆虫に向けているが、実は私たち自身に向いるのだと警告しています。
私たちは、化学薬品に替わる生物学的コントロール、又は他の方法を真剣に考え、議論する必要があるのかもしれません。
著者は、本書出版のわずか2年後、1964年春、がんにて永眠されました。
レイチェル・ルイーズ・カーソン
1907年-1964年
アメリカ内務省魚類野生生物局で自然科学を研究した生物学者。
著作一覧、原著発売年
『潮風の下で』(1941年)
『われらをめぐる海』(1951年)
『海辺』(1955年)
『沈黙の春』(1962年)
『センス・オブ・ワンダー』(1965年)