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人生とは時間の使い方そのものだ、といってもいい。

ほとんど製品やサービスは効率化を最大の売りにしている。ところが、皮肉なことに、それに成功したところでストレスは減らない。

アメリカの文化人類学者エドワード・ T ・ホールは、かつて、現代社会の生活をベルトコンベアにたとえた。古い仕事を片付ければ、同じ速さで新しい仕事が運ばれてくる。「より生産的に」行動すると、ベルトの速度がどんどん上がる。あるいは加速しすぎて、壊れてしまう。

効率を上げれば上げるほど、ますます忙しくなる。タスクを素早く片付ければ片付けるほど、ますます多くのタスクが積み上がる。

何かをやり遂げようと思うなら、他人との協力は不可欠だ。やるべき価値のある事は、自分1人では実現できない。

全部自分1人でできるはずという信念が強ければ強いほど、やるべき事は積み上がり「本当にやるべきか?」と考える余裕がなくなってくる。その結果、どうでもいいタスクばかりが増えていく。

急げば急ぐほど時間のかかる仕事にイライラする。時間を自分の自由に使おうとすればするほど、人生は孤独になっていく。これは「制約のパラドックス」と呼ばれるものだ。

自分には限界がある。その事実を直視して受け入れれば、人生はもっと生産的で楽しいものになるはずだ。

仕事の量は、完成のために利用可能な時間を全て満たすまで膨張するという有名な法則がある。1955年にシリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した「パーキンソンの法則」だ。

時間に限りがある人間は、いつだって厳しい選択を強いられる。一つ一つの決断は、目移りするほど素敵な可能性のメニューから何かを選べるチャンスなのだ。決められた時間の中で「あれ」ではなく「これ」をするという前向きなコミットメントだ。

完璧主義者は身動きができない

哲学者コスティカ・ブラダタンは、昔のペルシャの建築家のエピソードを例に挙げて、有害な先の場所を説明している。完璧主義こそは、大事なことを先延ばししてしまう原因。頭の中の考えを実行に移そうとすると、どんなに優秀な人でも、うまくいかない部分が出てくるものだ。現実は空想と違って、完全にはコントロールできない。才能が足りなかったり、時間がなかったり、予想外のことが起こったり、人が思うように動いてくれなかったりする。だから完璧を目指していたら、いつまでたっても実行できない。完璧な仕事なんて誰にもできない。だから肩の力を抜いて、まず始めてみたほうがいい。

選択肢は少ない方がいい

最大限に努力するために、どこかで手を打つ必要がある。高みを目指して努力するためには、努力の対象となる何かに、比較的永続的な方法で腰を据えなければならない。超一流の弁護士や芸術家になるためには、まず他の可能性を全て諦めて、法律や芸術を学ぶことに打ち込まなくてはならない。やりたいことを全部追い求めていたら、どれも中途半端に終わってしまう。

思い切って1つを選び、無限に広がっていた可能性を封印する。進むべき方向は、ただ1つ、自分が選びとった未来に向かって前進するだけだ。思い切って決めてしまえば、不安は消えてなくなる。

現実は注意力によってつくられる

心理学者ティモシー・ウィルソンによると、私たちが意識的に注意を向けることができるのは、脳内に氾濫している情報の0.0004%程度だそうだ。

あなたの人生とは、あなたが注意を向けたあらゆる物事の総体である。

『Strangers to Ourselves: Discovering the Adaptive Unconscious』ティモシー・ウィルソン(邦題:私たち自身への見知らぬ人々:適応的無意識の発見)

オリバー・バークマン『限りある時間の使い方』高橋璃子訳、かんき出版、2022年、291頁

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