人の寿命はどのように決まり、人はなぜ老化するのか?

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その手がかりは、腎臓にあります。腎臓は生体内の状態を一定に保つことによって私たちの命を維持しています。食事や環境の変化で状況に差が生じても、体内の塩分やカリウム、カルシウム、リンなどの成分量を常に一定範囲内に保つ管理・調整機能が腎臓にあります。私たちが毎日食べるものは内容や量が日によって違います。腎臓には不必要なものは尿とともに体外に排泄し、必要なものは体に吸収する仕組みが備わっています。この流れが滞り、体内に不要なものが多く溜まっていくと、徐々に不調や老化現象が現れるようになります。そのため、排泄する力を維持することが重要です。

また、体にとって不要なものや取りすぎてはいけないものを自ら知り、摂取しないことも大切です。日々、食べ過ぎに注意が必要なものは何でしょうか。

肥満が気になる人は糖分、高血圧が気になる人は塩分、コレステロールや中性脂肪の数値が気になる人は脂肪分の食べ過ぎに注意しているかもしれません。過剰摂取に気をつけなければならないものは他にもあります。それはリンです。リンを取りすぎてしまうと、次第に腎臓機能が低下したり、血管や細胞がダメージを受けたりして、体の老化するスピードが早まっていくと考えられます。また、慢性腎臓病、動脈硬化、心臓病、脳血管障害などの疾患を引き起こすことにもつながります。リンはカルシウムとともに骨を構成している成分です。体内のリンの約80%はカルシウムと結合し、水に溶けないリン酸カルシウムを作り、私たちの骨の主成分となっています。また、リンはDNAや細胞膜の主成分でもあります。そのため、リンは私たちの体を維持していく上で欠かすことのできない物質です。リンは肉や魚、乳製品などの様々な食品に含まれています。特にリンが多いのが食品添加物です。日ごろから加工食品やファストフード、スナック菓子などを多くとっていると知らず知らずのうちに摂取している成分です。そのため、糖分や塩分、脂肪分だけでなく、リンの取りすぎにも気をつけなければなりません。また、取りすぎによる影響を最小限にするためには、不要なものを排泄する腎臓の力を落とさないようにすることが大切です。

腎臓は、尿の量と成分を調整することによって体の中の必要なものと不要なものを仕分け体内循環を一定に保つ働きをしています。腎臓の役割は尿を作ること、血圧を調整すること、ビタミンDを活性化すること、造血ホルモンのエリスロポエチンを分泌することです。

腎臓の作る尿が身体にとって、どのような意味を持っているのでしょうか。

腎臓は、背中の両側に位置し、左右それぞれ130グラムほどの小型の臓器です。腎臓の内部は皮質と髄質とに分かれ、糸球体という毛細血管の糸玉とそこから続いてぐねぐねと走る尿細管で構成されています。腎臓は身体の状態に合わせて尿の成分を臨機応変に調整します。この調整により体液の成分を一定に保ち、身体を作る細胞たちが生きるための環境を整えています。

尿の成分のほとんどは水であり、そこに若干の塩分や体に不要な尿素などの物質が溶けています。腎臓は、この尿を作り出すことによって、体のために有用な働きをしています。尿の量は、1日あたり1.5リットルほどとされています。しかし、腎臓が作る尿の量と成分に正常値というものはありません。体の状態に合わせて臨機応変に適切な量と成分の尿を作るのが、腎臓の果たしている仕事です。暑さや運動などで大量の汗をかけば、尿の量は極端に少なくなります。また、大量のビールなどを飲めば、たちまち大量の尿として排泄されることとなります。尿は、腎臓にある糸球体で血液から濾過され作られます。その後、尿細管で尿の成分を再吸収して血液に戻しています。この仕組みにより、腎臓は刻々と変わる体調や環境に応じて、尿の量と成分を迅速かつ大幅に変更します。実際、左右の腎臓の200万個の糸球体では、毎分140ミリリットルの尿が血液から濾過されます。丸一日では200リットルほどになります。糸球体から尿細管へ流れた尿は、99%以上が再吸収されて血液中に戻ります。最終的に排泄される尿の量は、1日あたり1.5リットルほどになります。

なぜ、再吸収される大量の尿を糸球体は濾過しているのでしょうか。

腎臓にある糸球体と尿細管で、尿の量と成分を調整しています。体調や環境に合わせて、迅速に対応するためには実によくできた仕組みです。通常、量を2倍にしようとすると、2倍働かなくてはならなくなります。しかしこの仕組みだと、再吸収する尿の量を99%から98%にすることにより、尿1%から2%増量されます。糸球体では1日200リットルもの尿が濾過されているため、尿細管で再吸収する量を1%減らすことにより、約2リットルも尿を排出できることになります。糸球体での過剰な濾過量は、尿の量と成分を調整しやすくするための余裕になります。

腎臓は、血液をきれいにするろ過装置です。その濾過機能の役割をしているのがネフロです。腎臓には、心臓が送り出す血液量の4分の1が流れ込んでいきます。その血液をろ過しているのがネフロンです。一方のネフロンは糸球体と尿細管とで構成されていて、人間の腎臓には平均で約100万個、2つの腎臓で約200万個あるといわれています。ネフロンの数にはかなりの個人差があり、少ない人だと腎臓2つで50万個、多い人だと腎臓2つで300万個ともいわれています。個人差の理由は、遺伝要因や出生児の体重が関係するといわれています。生まれた時の体重が重いほどネフロン数が多く、軽いほどネフロン数が少ないという傾向があるようです。また、ネフロン数は加齢とともに減少します。60代から70代になると、ネフロン数が20代の半分程度になります。そして、一度、減ってしまったネフロンは再生する事はありません。

濾過機能が停止して毒素を含んだ汚れた血液が体内を回り出したら、人間は尿毒症を起こして死んでしまうことになります。尿毒症を防ぐためには、腎移植をするか人工透析をするかのどちらかの選択をしなくてはなりません。腎臓の濾過機能は人間の生死に関わってくる問題といえます。腎臓の濾過機能、つまりネフロン数の減少には、リンの摂りすぎが大きく影響していることがわかってきました。

リンは人体に絶対に欠かすことのできない物質ですが、摂りすぎると腎臓の機能を低下させたり血管トラブルや慢性炎症を引き起こしたりするようになり、老化を加速させる大きな原因となっていきます。そのため早い段階からリンの取りすぎを抑えていけば、腎臓を健やかにキープして、老化や病気を未然に防いでいくことができます。

糖尿病や慢性腎炎が原因となって腎臓の機能が損なわれ慢性腎不全になると、人工透析で腎臓の機能を補って生命を保つことになります。

血液から尿を濾過する糸球体の働き

糸球体は毛細血管が密集した小さな糸玉のようなもので、血液から尿を濾過する働きをします。糸球体のフィルターが正常であれば、濾過された尿には細胞やタンパク質は含まれません。糸球体腎炎などで濾過のフィルターに異常が生じると、尿中にタンパク質が漏れてネフローゼになります。糸球体は一旦壊れると再生する事はできません。

年齢とともに衰えていく腎臓をできるだけ長持ちさせて健康に長生きする方法

腎臓は年齢とともに少しずつ壊れ、糸球体の数を減らしていきます。腎臓は年齢や病気によって余裕を減らしていき、ある限度を超えると、急激に機能が低下して腎不全になります。腎臓に余分な負担をかけないで、残された腎臓の機能をうまく使って長持ちさせる。どのようにしたら良いのでしょうか。

生命にとって不可欠な体液の恒常性を守り続けている腎臓。腎臓では、糸球体と尿細管の2つが役割分担をして尿を作っています。糸球体は毛細血管が枝分かれしてからみ合った糸玉のような構造で、直径は0.2ミリほどです。人間の腎臓では左右合わせて200万個ほどが腎皮質の中にあります。糸球体は血液から尿を濾過して尿細管に流し込みます。

尿細管は皮質と髄質の中で複雑な走り方をしています。長さはまちまちで、数センチ程度から長いので6〜7センチです。尿細管は中を流れる尿から液体の成分を再吸収して血液中に回収します。最終的に残った部分が、尿となって随質の先端部の腎乳頭から出て行くことになります。

薬を1日に3回程度服用するのは、血液中の薬の濃度を一定に保ち効果を持続させるためです。薬のような体にとって本来の成分でないものは、体からどのように排除されるのでしょうか。体の濾過機能は肝臓と腎臓が担っています。肝臓は胆汁の中に不要なものを排泄し、腎臓は尿の中に排泄します。どちらで排泄されるかは、薬の成分によって変わります。脂溶性のものは肝臓で代謝を受けて水溶性に変えられ、胆汁の中に排泄されます。分子量の小さなものは、肝臓から尿中に排泄されます。尿中に排出される物質にはいろいろなものが含まれています。代表的なものは尿素です。尿素は食物から取り入れたものではなく、肝臓で新たに作られたものです。なぜ尿素は肝臓で作られるのでしょうか。体エネルギー源として用いる営業車には、炭水化物や脂質、タンパク質の3種類があります。いずれも炭素、水素、酸素を中心にした化合物で酸素によって燃焼すると水と二酸化炭素を生じます。しかしタンパク質は窒素含んでいます。タンパク質を構成しているアミノ酸が細胞内で分解されると、含まれている窒素はアンモニアになります。アンモニアは水に溶けやすく、弱アルカリ性の溶液をつくります。アンモニアは極めて毒性が高いため、肝臓の働きで、ほぼ無害な尿素に変えるのです。尿素も水に溶けやすい物質のため、腎臓で尿の中に取り込まれ排出されます。尿素は、アンモニアに比べて毒性は低いが、濃度が高くなると細胞の機能に障害を引き起こします。病気で腎臓の排泄機能が損われると、尿素などが体内に溜まって様々な症状を引き起こします。これを尿毒症と呼びます。

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尿は、なぜ黄色いのか?

尿の色の元は、ウロビリンと呼ばれる物質です。ウロビリンは、赤血球内のヘモグロビンに含まれるヘムに由来します。赤血球の寿命は120日ほどです。古くなった赤血球は脾臓などで壊されて、その成分の大部分は再利用されています。しかしヘムだけは再利用ができません。ヘムは赤血球を処理するマクロファージの細胞内でビリルビンに変わり、血液中に放出されます。脂溶性のビリルビンは、肝細胞がグルクロン酸と抱合して水溶性になり、胆汁中に放出されます。胆汁に含まれて腸に出たビリルビンは、細菌によって分解されて糞便の茶色い色の元になります。一部はウロビリノーゲンとなり、腸で吸収され、それを腎臓が尿中に排出します。ウロビリノーゲンは、尿の中で酸化して黄色いウロビリンになります。つまり、壊れた赤血球から生まれた黄色いウロビリンが、尿の黄色の正体です。尿の色は、肝臓の機能や尿の排出量など、様々な要因によって変化します。

尿の色で一般の病気の診断に役立てることができません。

ろ過フィルターは血漿の中の血球とタンパク質は通さない。水やイオン、ブドウ糖やアミノ酸などの小さな分子は、ろ過フィルターを通り抜けてしまう。病的な状態では、糸球体からタンパク質が漏れるようになります。これは糸球体基底膜と足細胞の異常によってタンパク質を血液中にとどめる働きが壊れて、尿中にタンパク質が漏れ出してきます。さらにひどい状態では、フィルターに大きな孔が開いて、血球が尿中に出てくることもあります。

人体には多くの種類の細胞があり、様々な器官やその組織を作っています。細胞分裂の能力に注目すると、細胞は3つの種類に分類できます。①分裂を続ける細胞。②必要なときだけ分裂する細胞。③分裂できない細胞。皮膚の表皮細胞、胃腸の粘膜の上皮細胞、血球を作る骨髄の細胞などは①で一生分裂を続けます。大半の細胞。2種類で、普段は分裂しない刺激を受けると分裂を始めます。③の細胞は珍しく、足細胞と神経細胞、骨格筋や心筋の細胞も分裂をすることができません。

糸球体は再生しない

足細胞は細胞分裂をしません。そのため糸球体は、一度壊れると再生することはできません。糸球体は非常に繊細な構造で壊れやすく、年齢とともに少しずつ減っていきます。壊れた糸球体には、結合組織が侵入して、毛細血管が潰れてしまいます。この状態を硬化糸球体と呼びます。正常な人でも40歳を超えると、硬化糸球体の数は急速に増え、60歳代になるとその割合は8%になります。糸球体が硬化する原因の多くが、足細胞であることがわかってきています。糸球体腎炎の患者では、尿の中に足細胞が多量に出てきます。糸球体が炎症を起こすと、表面を覆う足細胞が剥がれて尿中に排泄されるのです。

腎臓病の治療の基本は、糸球体に無理をかけないようにして、機能している糸球体を温存してできるだけ長く使うという事になります。歳をとると全身の臓器の機能が下がっていきます。他の臓器の寿命まで腎臓の働きを保つことができれば、腎臓病の治療は成功といえます。

糸球体が十分な量のろ過する事は、体液の量と成分を一定に保って人体の細胞が生きていけるようにするために必要です。糸球体濾過量を十分に確保するためには、十分な数の糸球体が正常に働いてくれることが前提です。糸球体濾過のためには、大切な要素が2つあります。1つは腎臓に十分な量の血液が流れることです。血液は濾過をして尿を作るための材料です。もう一つは、糸球体に十分な血圧が伝わること。血圧が濾過をするための原動力になります。

心臓が1分間に送り出す血液の量を心拍出量と呼びます。1分間あたりの心拍出量は約5リットルです。人の体に含まれる血液の量は、体重の約8%になります。体重60キログラムの人だと、5リットルほどになります。つまり心臓からは、全身の血液を1分間で入れ替えるほどの勢いで血液が送り出されていることになります。それぞれの臓器に送られる心拍出量の割合は、安静にしている時で、肝臓が28%、腎臓が23%、脳は15%、心臓は5%ほどです。肝臓は、全身の物質代謝の中枢であり、その仕事を行うために多量の血液が送られています。胃腸で吸収された多量の栄養素、炭水化物やタンパク質、脂質などを集中的に代謝しています。腎臓に送られる多量の血液は、腎臓の細胞を養う目的もありますが、血液から尿を生成するという目的のために送られてきます。

尿の材料は血液

尿の材料は血液です。人の血液は体重の約8%で、血管系の中に5リットル程度含まれています。

血液はどのような成分を含んでいるのか

血液の約45%は血球と呼ばれる細胞成分で、残りの55%が血漿と呼ばれる液体成分です。血液から血球を分離するには、血液凝固を止める処理をしてから、血液を遠心分離器にかけます。試験管の中で血球の成分が沈んで、血漿が上積みとして残ります。血液をそのまま放置すると、血漿中のフィブリノゲンというタンパク質が固まって繊維状になり、血球と一緒に塊を作って試験管の中に沈みます。残った上積みは血清と呼ばれます。血漿と血清の違いは、フィブリノゲンを含むか含まないかです。

血球の99%は酸素量赤血球です。残りの大部分は、体を外敵から守る細胞で白血球と呼ばれ、血管の破損部を防ぐ血小板という細胞断片も含まれています。

血漿には、様々な物質が溶けています。最も多く含まれているのがタンパク質で約7%になります。その他としてナトリウムや塩素などの電解質が0.9%、ブドウ糖などの糖質が0.1%、脂質が1%ほど含まれています。

タンパク質には体の機能のために有用な働きをする様々なものが含まれています。血清タンパク質のうち60から70%を占めるのが、アルブミンと言う小型の分子です。アルブミンは、血液のコロイド浸透圧を調整したり、細胞に取り込まれてアミノ酸の供給源として利用されます。残りの大部分は、大型の分子でグロブリンと呼ばれ、α1(アルファワン)、α2、β(ベータ)、γ(ガンマ)に分類できます。αとβのグロブリンは、鉄イオンを運ぶトランスフェリンや甲状腺ホルモンを結合して運ぶサイロキシン結合タンパク質などが含まれています。γグロブリンは、免疫抗体のタンパク質を含んでいます。フィブリノゲンは、血液中のトロンビンという酵素によって末端が切断されてフィブリン・モノマーになり、これが重合をして繊維状のフィブリンとなって血液を固めます。血管壁が壊れて血液が外のコラーゲン繊維に触れると、血液凝固の連鎖反応が起こり、フィブリンが生じます。血小板は血管壁の破れた部分に集まって一時的に塞ぎ、血液凝固を促進する働きをします。これらの血漿タンパク質は、糸球体の濾過フィルターをほとんど通り抜けません。小型のアルブミンは、1%ほどが尿の中に濾過されますが、尿細管の最初の部分の近位尿細管で全て再吸収されます。大型のグロブリンやフィブリノゲンは、全く濾過されません。

糸球体のろ過フィルターは、タンパク質を通さない性質を持っています。糸球体に炎症が起こると、この性質が壊れて、糸球体から多量のタンパク質が漏れて蛋白尿が出ます。大量の蛋白尿が出る状態をネフローゼ症候群と呼びます。糸球体基底膜や足突起に以上が終わると、ロッカーのフィルターを通って大量のタンパク質が漏れ出るようになります。糸球体基底膜の陰性荷電を持つ分子を酵素で壊したり陽性荷電を持つ分子で中和したりすると、大量のタンパク質が漏れているようになることがわかっています。急性や慢性の糸球体腎炎になると、しばしばネフローゼ症候群を起こしますが、このとき糸球体基底膜と足細胞に何らかの異常が起こっていることが推測されます。ネフローゼ症候群で大量の蛋白尿が出ると、他にもいろいろな症状が出てきます。血漿中のタンパク質が減少して低タンパク血症、血液中のコレステロールなどが増えて高脂血症、全身の結合組織に水が溜まって浮腫などになります。蛋白尿を起こしている糸球体腎炎では、ステロイド剤などで炎症を止める治療が行われます。それ以外にも食事中のタンパク質を制限します。制限することで、尿中にタンパク質が出にくい状況を作ってあげます。これは、足細胞を守るための治療でもあります。足細胞はろ過フィルターの外側にあり、通常は周囲の尿にはタンパク質が含まれていません。大量の蛋白尿が出ると、足細胞は高濃度のタンパク質液にさらされ、細胞はタンパク質を取り込んで処理をしようとします。その過程が足細胞に負担となって障害を起こすことが実験的に証明されています。壊れやすい糸球体と足細胞をいかに保護していくかが、腎臓病の治療の基本になります。

2022年の平均寿命は、男性 歳、女性 歳です。1947年では、男性50.0歳、女性53.96歳でした。他国と比較すると、男性第 位で女性第 位となります。平均寿命が伸びたのは、食糧事情や生活環境、医療の進歩が大きく影響しています。死因となる病気の種類は、戦前から戦後にかけて大きく変わっています。戦前には肺炎、胃腸炎、結核といった感染症が主な死因でした。第二次世界大戦末に開発された抗生剤が戦後に普及して感染症が効果的に治療ができるようになり、感染症が急減しました。代わって主な死因として浮上してきたのが、悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患です。年齢とともに細胞の遺伝子の突然変異が蓄積して癌化する細胞が増え、がんを抑制する免疫機能が低下するので、高齢者で悪性新生物の発生頻度が増えるのは避けられないことです。また、加齢とともに動脈壁は傷つきやすくなり、動脈硬化が増えてきます。動脈硬化を基盤とする虚血性心疾患や脳血管疾患のリスクは当然増加します。

腎不全の原因となる慢性腎疾患(CKD)は、メタボリック症候群と密接な関係があります。メタボリック症候群は不適切な生活習慣によって肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症を生じたものです。この状態になると全身の血管に動脈硬化が生じて、心疾患や脳血管疾患の発生リスクが高くなります。メタボリック症候群に含まれる糖尿病や、それを背景に発生する心疾患や脳血管疾患は、生活習慣病と呼ばれています。

メタボリック症候群は慢性腎疾患を引き起こす要因でもあります。糖尿病が原因となって起こる糖尿病性腎症は、人工透析を必要とする慢性腎不全の最大の原因です。また、慢性腎疾患が進行し、末期腎不全となって人工透析へと進行する過程は、心疾患や脳血管疾患を悪化させる要因でもあることが知られています。慢性腎不全は、単に腎不全による死亡の原因となるだけではありません。これら一群の疾患を合わせると死亡原因としては、悪性新生物と並ぶ主要な死因であるといえます。

慢性腎疾患の患者は、1330万人と推計されています。成人の8人に1人が慢性腎疾患ということになります。慢性腎疾患が悪化して末期腎不全となり、人工透析を必要とする患者はおおよそ30万人います。腎臓は年齢とともに濾過機能が低下していきます。それは糸球体が少しずつ壊れていくからです。122人の腎臓の病理標本を調べたアメリカの研究では、60歳代で7.6%、70歳代で12.3%の糸球体が壊れて硬化していたとの報告があります。老化や病気などで糸球体の数が減ると、糸球体濾過量の余力が減ってきます。糸球体の減少が続くと、どこかの地点で濾過量の余力がなくなり、腎臓の機能が急激に悪くなります。糸球体数が減ると糸球体の血圧が上昇し糸球体が肥大します。すると糸球体の周りにある足細胞が糸球体から脱落します。糸球体の炎症が強いときには、足細胞の特徴を持った細胞が尿中に混ざっていることが確認されています。糸球体に無理がかかる状態が続くと、加速度的に腎機能は低下していきます。

現在では、腎臓が壊れたとしても人工透析により不要な物質を体から排除し、体液の成分を維持して、何十年にもわたり生き続けることができます。人工透析の2種類の方法があります。血液透析と腹膜透析です。血液透析では、患者の血管にカニューレを挿入し、血液を引き出して血液透析に通し、血液中の不要な物質を取り除き、別のカニューレから患者の血管に血液を戻します。カニューレからの血液の出し入れをしやすくするために、体表に近い動脈と静脈を人工的につないで太くする、内シャントという手術をする必要があります。毎分100〜250ミリリットルの血液を出し入れしながら、3〜5時間かけて血液透析を行い、それを週に3回繰り返します。

腹膜透析では、腹腔にカニューレを差し込んで置き、腹腔内に透析液を注入して取り出すという操作を1日に数回繰り返します。この操作は自分で行うため、病院に通う回数と時間が少なくなり、生活の時間への制約が少なくて済みます。しかし腹腔に細菌が入り込んで腹膜炎を起こしたり、長い年月のうちに腹膜の上皮が変性・硬化して癒着を起こし、腸の蠕動を妨げたり腸閉塞を起こしたりします。被嚢性腹膜硬化症と呼ばれる重い合併症です。

人工透析により、腎臓の機能の全てが賄えるわけではありません。患者には様々な合併症が生じ、食べ物の制限もあります。合併症で最も多いのは、高血圧です。人工透析では腎臓が働いていた時のように体液の量と成分の調整を行い、水と塩分を十分に排出できないためです。そのため水と食塩の摂取は控えめにすること、またカリウムを多く含む果物や刺身も食べてはいけません。また、人工透析の合併症としてしばしば腎性貧血も起こります。腎臓では、エリスロポエチンというホルモンが作られており、骨髄での赤血球の生成を刺激しています。腎不全になるとこのホルモンが作られなくなり、造血が抑えられます。エリスロポエチンを薬として投与すると、腎性貧血は防ぐことができます。骨軟化症も人工透析の合併症として生じます。ビタミンDは栄養素の1つであり、腸でもカルシウムの吸収や腎臓でのカルシウムの再吸収を促進する働きを持っています。ビタミンDが作用するためには、肝臓と腎臓で代謝を受けて活性型になる必要があります。腎不全の場合にはビタミンDの代謝ができなくなるため、体内のカルシウムが不足して骨軟化症がおきます。活性型ビタミンDを薬として投与することで防ぐことができます。

人工透析のための医療費は毎年増え続けており、国民にとっても大きな負担となっています。腎臓病が悪化して腎機能が低下するスピードをできるだけ遅くして、腎不全のために長期間にわたり人工透析をしなければならない患者をできるだけ減らすのは、現在の腎臓病学の抱えている大きな課題です。そのためには糸球体が壊れないようにし、できるだけ長く腎機能を温存していくというのが、腎臓病の治療目標です。

腎臓病のごく軽いものには、ほとんど自覚症状がありません。軽い腎臓病でも、放置しておくとやがて進行して慢性腎不全になったり、心血管系の病気を起こしたりします。最近は、診断法や治療法の進歩により、軽度の腎臓病の段階で見つけて早期から治療を行い、腎機能を失ったり、心血管系の病気へ進行するのを防ごうとする試みが世界的に広がっています。

ほとんど症状のないごく初期の腎臓病から末期の腎不全に至るまでの幅広い腎臓病を、慢性腎疾患(CKD;chronic kidney disease)と呼びます。尿タンパク陽性などの腎疾患の存在を示す所見や、腎機能低下が3ヶ月以上続く状態は、慢性腎臓病であるとされています。慢性腎臓病の患者は、腎障害で亡くなるよりも、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患で亡くなる可能性の方がはるかに高い。そして、心血管疾患を持つ患者の多くは、腎機能が低下しています。慢性腎臓病と心血管疾患ではともに、血管内皮細胞が障害されて動脈硬化を起こしやすく、体内のバランスが崩れて高血圧にもなりやすい。動脈硬化と高血圧は、慢性腎臓病と心血管疾患を共に悪化させる重要な因子でもあります。

生活習慣病やメタボリック症候群も、慢性腎臓病と密接な関係があります。生活習慣病は糖尿病、脂質代謝異常、高血圧など遺伝的な要因のほかに個人の生活習慣が大きく関わって発症する疾患です。メタボリック症候群は、生活習慣病が発生する仕組みについての考え方であり、過食と運動不足により内臓に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が生じ、その結果として糖尿病、脂質代謝異常、高血圧が発症すると考えられています。インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる状態で、糖尿病の原因となります。インスリン抵抗性が強くなるほど蛋白尿が出やすくなり、腎機能が低下するとインスリン抵抗性も強くなって悪循環となります。

慢性腎臓病は、悪化して腎不全になると人工透析を余儀なくされるだけでなく、心血管疾患も悪化させて患者を死に至らしめ、生活習慣病と一緒に悪循環を起こしてさらに病状を悪化させます。慢性腎臓病は、軽いからといって放置せずに、軽い段階から積極的に治療すべきです。現在は、慢性腎臓病に有効な薬剤がいくつも開発されて、有効な治療をすることができるようになってきています。慢性腎臓病の治療にはいくつかの柱があります。

慢性腎臓病の治療

1、生活習慣と食事を改善する

何よりも肥満を解消すること、喫煙者の場合には禁煙をすることが大切です。そうすることで動脈硬化と慢性腎臓病の進展が抑えられます。また、食事中の食塩とタンパク質を制限するのも有効です。食塩の制限により高血圧が改善され、タンパク質の制限により慢性腎臓病の進行が抑制されます。

2、降圧剤によって血圧を下げる

ACE阻害薬(変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)により血圧を下げて、慢性腎臓病と高血圧の悪循環を断ち切ることも有効です。

3、尿タンパクの改善をする

尿タンパクは糸球体の障害を推し進めるので、改善する必要があります。ACE阻害薬やARBは尿タンパクを改善する効果もあります。抗血小板薬なども尿タンパクを減少させる働きがあります。

4、糖尿病がある場合には、インスリンにより血糖値をコントロールする

5、高脂血症などの脂質代謝異常がある場合には、スタチンを用いてコレステロール合成を抑える

6、免疫異常などで糸球体に炎症が生じて慢性腎臓病になった場合には、その原因を取り除いたり炎症を抑えたりする積極的な治療を行う。

炎症を抑えるためには、副腎皮質ステロイドが有効です。

参考文献

坂井建雄『腎臓のはなし:130グラムの臓器の大きな役割』中央公論新社、2013年、204頁

黒尾誠『腎臓が寿命を決める:老化加速物質リンを最速で排出する』幻冬舎、2022年、189頁