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機能性医学の定義
機能性医学(Functional Medicine)は、1990年にアメリカのジェフリー・ブランド(Jeffrey Bland)博士が提唱した新しい医学です。
機能性医学とは、発症メカニズムが複雑である慢性疾患に対し、対処療法に終始するのではなく、発症原因に着目しながら、生活習慣にアプローチして、その予防と根本治療を目指す十人十色の個体差を考慮した医学です。
遺伝子について
人の体は40兆個近い無数の細胞の集まりです。その細胞核には23対の染色体が収められています。染色体には4つの塩基が二重螺旋を描きながら連なるDNA(デオキシリボ核酸)が入っています。人体はおよそ10万種類ものタンパク質からなると言われています。このタンパク質の設計図が書き込まれているのがDNAです。DNAの中でタンパク質を構成しているアミノ酸を作る指令を出している部分が遺伝子です。タンパク質は20種類ものアミノ酸からなります。タンパク質は平均数百個のアミノ酸を1列に連ねたもので、3個の塩基がコドンという1つの単位となって1個のアミノ酸を指定しています。
寿命には個人差がありますが、その個人差を決めるファクターの1つに長寿遺伝子があります。長生きする人も平均寿命まで生きられない人もみんな同じように長寿遺伝子を持っています。長生きの人は長寿遺伝子のスイッチがオンになっているのに対し、長生きできない人では長寿遺伝子のスイッチが入っていません。
遺伝子がオンになったり、オフになったりする現象は、ダイナミックに起こっています。それを示したのが、アメリカのディーン・オーニッシュ(Dean Ornish)という研究者の有名な研究です。
前立腺がんの患者さんの細胞を取り出して調べてみると、前立腺がんを促進する遺伝子のスイッチがオンになり、前立腺がんを抑制する遺伝子のスイッチはオフになっていました。ところが、食事や運動、瞑想などで生活習慣を改善してみると、500以上の遺伝子のスイッチングが変化して、前立腺がんを促進する遺伝子がオフになり、抑制する遺伝子がオンになることがわかったのです。細胞ごとに参照する設計図(遺伝子)の場所が異なっており、同じ細胞でも、環境に応じて秒単位で読み出す設計図が変わっているのです。これを「エピジェネティクス」と呼びます。
がんや心臓病、脳卒中といった慢性疾患の発症に遺伝子が関与する割合は5〜10%に過ぎないと考えられています。90〜95%は遺伝子以外の生活習慣が関与しているため、毎日をどう生きるかで慢性疾患は予防できるのです。
免疫系を整えるために必須の栄養素
ビタミンD不足による免疫系の異常が、多くの現代人が悩んでいるアレルギー疾患の一因です。ビタミンDの摂取目安量はカルシウム代謝の正常化を基準としており、アメリカ食品栄養委員会では1日600 IU(15μg)としています。ところが、免疫の正常化と言う観点を基準にすると、その6倍以上である。4000 IU(100μg)が必要です。日本を始めとする先進国では、日焼けを避ける傾向が強く、人口の4割はビタミンD欠乏を起こしています。免疫を正常化するだけのビタミンDを食事から取るのは極めて困難です。アレルギー疾患が増えている背景だと考えられます。
ビタミンDは、通常、脂肪に備蓄されており、必要に応じて血中に放出されています。欠乏している場合には備蓄分が少ないため、大量にとっても摂取後6時間くらいで血中濃度が下がってきます。
→どれだけ日光にあたるとビタミンDが4000IU作られるのか?
酸化コレステロールを生む酸化ストレスの背景
参加コレステロールを生む酸化ストレスの背景には、活性酸素の増加や抗酸化機能の低下、24時間血圧の異常、炎症や免疫不全、糖化などがあり、睡眠不足、運動不足、精神的なストレス、トランス脂肪酸や精製糖の摂取、オメガ3脂肪酸の不足、カリウムやマグネシウムの不足、有害重金属の蓄積などが挙げられています。
動脈硬化:ビタミンB群がカギを握る
動脈硬化にはホモシステインの濃度が関係しています。ホモシステインは体内で合成されない必須アミノ酸のメチオニンの代謝プロセスで生成されます。ホモシステインからは、肌代謝を正常化してシミを生じにくくするシステイン、エネルギー産生に関わるα-ケト酪酸の前駆体、あるいは必要に応じて再度メチオニンが合成されます。しかし、この経路が滞って体内濃度が上昇すると、ホモシステインは自己酸化を起こして活性酸素が増えてきます。
ホモシステインから生じた活性酸素がコレステロールを酸化させて、それが血管壁に蓄積すると動脈硬化が始まります。また、ホモシステインは血管を広げる働きを持つ一酸化窒素(NO)の産生を抑えて、血小板の働きを活性化して、血の塊である血栓が生じやすい環境を作り、心臓病や脳卒中の危険度を上げます。
ホモシステインが増える理由に、B6、B12、葉酸(B9)といったビタミンB群の不足があります。つまり、B群をきちんと摂れば、動脈硬化や骨折などのリスクが下げられるのです。
B6はホモシステインを速やかにシステインに転換し、B12はホモシステインをメチオニンに転換するメチル化を行います。そして葉酸はB12の働きを助けてくれる作用があります。B群はいずれも水溶性で1度にたくさん摂っても当座不要な分は尿に混じって排出され、蓄えることができません。そのため、日々の食事やサプリメントからこまめに摂取する必要があります。
2008年の厚生労働省研究班によるコホート研究ではB6、B12、葉酸の適度な摂取により、動脈硬化が引き起こす心筋梗塞のリスクが37〜48%下がったという報告が出ています。このほか、タンパク質の合成には亜鉛とビタミンB 6が必要ですし、コラーゲンの立体構造を作るために、鉄が要り、使用済みの鉄を再生するにはビタミンCも欠かせません。
参考文献:
斎藤糧三「慢性病を根本から治す:機能性医学の考え方」光文社新書、2015年、242頁
